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東京地方裁判所 昭和63年(行ウ)116号 判決 1990年1月30日

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、別紙物件目録一記載の建物の建築及び同目録二記載の建物の解体撤去をしてはならない。

2  被告は、別紙物件目録一記載の建物の建築及び同目録二記載の建物の解体撤去の工事についての工事請負代金を支出してはならない。

3  訴訟費用は、被告の負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、東京都杉並区(以下、「杉並区」という。)の住民であり、被告は、同区の区長である。

2  被告は、杉並区が所有管理する同区阿佐谷北五丁目四五番二四号所在の杉森中学校の校舎の一部を別紙物件目録一記載の建物(以下「本件新校舎」という。)に改築するについて、同目録二記載の建物(以下「本件クラブハウス」という。)を解体撤去し、本件新校舎内の一階部分(別紙本件新校舎一階平面図中の赤斜線部分)に新たにクラブハウス(以下「新クラブハウス」という。)を設置することを計画し、右計画に基づき、昭和六三年四月一日、訴外業者との間で、工事内容を既存校舎の一部解体及び改修、本件新校舎の改築、本件クラブハウスの解体撤去の工事及び環境整備等右改築等工事に伴う一切の工事とし、契約金額を一三億三〇〇〇万円、工期を五六〇日(平成二年二月二二日まで)とする校舎改築等工事請負契約(以下「本件契約」といい、本件契約の内容となる工事を「本件校舎改築等工事」という。)を締結した。

3  しかし、以下の(一)、(二)のとおり、本件クラブハウスの解体撤去及び新クラブハウスの設置を伴う本件新校舎への改築を内容とする本件契約の締結は違法であるところ、右各工事が実行されると、原状回復は不可能であり、また、その工事請負代金が支払われることとなって、杉並区に回復困難な損害を生じさせることになるが、本件校舎改築等工事は既に開始されているので、右各工事の差止め及び右各工事についての工事請負代金の支出の差止めをする必要がある。

(一) 補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(以下「補助金等適正化法」という。)二二条違反

(1) 本件クラブハウスは、杉並区が昭和五四年夏に二九五〇万円の費用をかけて建築し、同年九月五日から使用が開始されたものであるが、右費用のうち一五七万二〇〇〇円は国庫補助によるものである。

(2) 補助金等適正化法二二条は、補助金等の交付の対象となる事業を行う者は、政令で定める場合を除き、右事業により取得した財産を関係省庁の長の承認を受けないで、補助金等の交付の目的に反して使用し、譲渡し、交換し、貸し付け、又は担保に供してはならない旨定め、右の政令である補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律施行令(以下「補助金等適正化法施行令」という。)一四条一項二号によれば、補助金等の交付の目的及び当該財産の耐用年数を勘案して関係省庁が定める期間を経過した場合にのみ補助金等の交付の目的に反する使用等ができるとされている。本件クラブハウス等の学校教育施設に関する補助金等を所掌する省庁は文部省であるところ、文部大臣が定めた「補助事業者等が補助事業等により取得した財産のうち処分を制限する財産及び補助事業等により取得した財産の処分制限期間」(昭和六〇年三月五日文部省告示第二八号。以下「本件告示」という。)によれば、本件クラブハウスは、本件告示の別表の「処分を制限する財産の名称等」欄の「財産の名称・構造等」欄のうち「鉄骨鉄筋コンクリート造又は鉄筋コンクリート造のもの」で「事務用又は美術館用のもの及び下記以外のもの」に該当するから、その処分制限期間は六五年である。

(3) 本件クラブハウスを解体撤去することは、補助金等適正化法二二条に掲げる目的外使用あるいは譲渡に準ずるものであるところ、右の処分制限期間を経過しない段階で本件クラブハウスを解体撤去することは同条に違反する。

(二) 地方財政法八条違反

(1) 本件クラブハウスの建築に際して、被告は、隣接住民に対し、「本件クラブハウスは災害時には避難場所として使えるものであり、すぐ取り壊すことはない」、「耐震建物として基礎も通常より深いものとする」、「建築場所は生徒の授業に影響が少ないところとして選んだ」等といった説明をし、また、区民に対し、杉並区教育委員会を通じて文書により、「校舎増築の際にクラブハウスを包含して建設することは考えられず……」との説明をして、隣接住民等の了解を得ていた。

(2) 本件クラブハウスは、ホール及び和室を備えており、右各部屋は地域住民の使用にも開放されていたが、新クラブハウスは、本件クラブハウスに比べて床面積が一〇・八平方メートル少なく、かつ、ホール及び和室を備えないものであるから、住民の使用上の便益が減少することになる。

(3) 地方財政法八条は、地方公共団体の財産はその所有の目的に応じて最も効率的にこれを運用しなければならない旨定めるところ、本件クラブハウスの解体は校舎の改築において必要的なものではないから、本件クラブハウスを解体撤去すること及び本件クラブハウスに加えて本件新校舎内に新クラブハウスを設置することは予算の無駄使いであり、また、右(1)、(2)のとおり、本件クラブハウスの解体撤去は、被告が隣接住民等に対し公的に表明、約束した行政施策を恣意的に変更するものであって、本件クラブハウス建築の趣旨及び地域住民の便益に反するものであるから、財産の管理・運用に関して被告に与えられた裁量権を著しく逸脱又は濫用するものである。したがって、本件クラブハウスの解体撤去及び新クラブハウスの設置を伴う本件新校舎への改築は同条に違反する。

4  原告は、昭和六三年六月二七日、地方自治法二四二条に基づき、杉並区監査委員に対し、本件クラブハウスの解体及び新クラブハウスの設置の中止を求めて監査請求をしたところ、同年八月一七日、右監査請求は理由がない旨の監査結果の通知を受けた。

5  よって、原告は、被告に対し、地方自治法二四二条の二第一項一号に基づき、本件新校舎の建築及びそれに伴う本件クラブハウスの解体撤去並びに右各工事についての工事請負代金支出の差止めを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実は認める。

3  同3について

(一) 冒頭部分は、本件校舎改築等工事が既に開始されていることは認め、その余は争う。

(二) (一)の(1)は、本件クラブハウスの建築費が二九五〇万円であることを除き認める。右の建築費は二八九〇万円である。(2)は、補助金等適正化法二二条及び同法施行令一四条一項二号の各規定が原告指摘のとおりであることは認め、その余は争う。(3)は争う。

(三) (二)の(1)は、被告が、杉並区教育委員会を通じて文書により、特定の個人に対し、「校舎増築の際にクラブハウスを包含して建設することは考えられず……」との説明をしたことは認めるが、その余の事実は否認する。(2)は、本件クラブハウスが和室を備えていること、新クラブハウスは本件クラブハウスに比べて床面積が一〇・八平方メートル少なくなること、新クラブハウスはホールを備えないものであることは認め、その余の事実は否認する。(3)は、地方財政法八条の規定が原告指摘のとおりであることは認め、その余は争う。

4  同4の事実は認める。

三  被告の主張

1  差止請求について

本件クラブハウスの解体撤去及び新クラブハウスの設置が含まれる新校舎への改築並びにその工事請負代金の支出は、本件契約に基づいて行われるものであるところ、本件契約が法令に違反していることだけでは本件契約が当然に無効となるものではなく、また、本件契約が無効となることについて他に主張がないから、本件契約上の債務の履行として行われる右各行為の差止めを求める本件差止請求は失当である。

2  補助金等適正化法二二条違反の主張に対して

補助金等適正化法二二条は、補助金等の不正申請、不正使用の防止等を規制することを目的として定められたもので、補助事業等により取得した財産を補助事業等の目的以外に使用、処分することを禁止する規定であるが、同条により制限されている財産の処分の内容は、補助金等の交付目的に反する使用、譲渡、交換、貸付け、担保提供に限定されているのであって、取り壊しは右の規制を受ける財産処分行為のいずれにも該当しない。また、補助金等適正化法は、交付を受けた補助金等に係る予算の執行、交付行政庁の交付決定の適正化を目的とする法律であるから、同法に違反することが直ちに地方財務行政の違法につながるものではない。

3  地方財政法八条違反の主張に対して

本件校舎改築等工事は、以下のとおりそれについて必要性、合理性があるものであり、右工事の実施は被告の財産管理・運営上の裁量権の範囲内の行為であり、地方財政法八条に反するものではない。

(一) 本件校舎改築等工事の計画当時における杉森中学校の校舎等の状況は、昭和三三年八月に竣工した屋外プール、昭和三五年三月に竣工した体育館、昭和三六年三月に竣工した第一期工事分の鉄筋コンクリート造りの校舎、昭和四一年二月に竣工した第二期工事分の鉄筋コンクリート造りの校舎、昭和五〇年三月に竣工した第三期工事分の鉄筋コンクリート造りの校舎及び昭和五四年八月に竣工した本件クラブハウスであり、その位置関係は別紙校舎等配置図のとおりである。

(二) 東京都が昭和四九年から昭和五一年にかけて行った公共建築物耐震診断(東京都震災予防計画)において、昭和五四年二月二〇日に報告された杉森中学校の診断結果は、第一期工事分の校舎につき改築が望ましいとの診断であり、次いで、杉並区が右診断結果を受けて昭和五六年一月に行った同中学校の耐震診断調査(精密診断)において、第一期工事分の校舎だけでなく、第二期工事分の校舎についても補強が困難であるとの判定がされた。

(三) 杉並区は、昭和五七年三月、杉森中学校を耐震改築の対象校に指定し、同中学校のプール及び体育館も老朽化していたこと等から、第三期工事分の校舎を除いたその余の校舎等の全面改築の必要性があるものと認め、校舎改築等に関する基本計画案を策定したが、その設計において、存置部分については、新校舎との一体性を確保するため、内部、外部及び窓枠等に大規模な改造を行うこと、新校舎については、耐震上の理由、学校の機能面、敷地の有効活用及び経済性等の事情を考慮した結果、<1>改築対象建物にプール、体育館をも取り込み、また、将来的な展望から施設の充実を図ったため、建築面積が増大し、<2>従来の縦長型校舎は揺れや地震に弱いため、正方形に近い形状の建物にし、<3>周辺住民に対する日影規制等の関係上、建物北側を道路から二・五ないし三・五メートルセットバックさせる、という設計となった。

(四) 校舎改築等に関する基本計画案においては本件クラブハウスの解体撤去は取り上げられていなかったが、教育委員会、学校側代表及び住民側代表により構成される区立杉森中学校校舎改築検討協議会において、右基本計画案を検討する過程で、右(三)の設計上、新校舎が既存の校庭(運動場部分)内に二三メートル張り出すことになり、そのままでは運動場面積が減少することになることから、本件クラブハウスを撤去する場合としない場合における、<1>運動場の形状及び広さ、<2>授業における事情、<3>部活動における事情、<4>学校行事における事情、<5>学校施設の開放における事情等につき、以下の(1)ないし(6)のとおり利点と欠点が検討されて、本件クラブハウスを撤去する方が利点が大きいとの結論が出され、運動場の面積をより広く確保する方向で検討することが要望事項とされ、これを受けて本件クラブハウスの解体撤去が決定されたのである。

(1) <1>の点については、運動場の面積は、既存のものは五六〇〇平方メートルであるが、校舎改築後は、本件クラブハウスを撤去しない場合には五〇七〇平方メートルとなるのに対し、撤去した場合には五三〇〇平方メートルとなり、また、運動場が整形地となる。

(2) <2>の点については、本件クラブハウスを撤去した場合には、縦八〇メートル、横五〇メートルのサッカーコートが確保できるほか、一五〇メートルのトラックがとれるのに対し、撤去しない場合には、トラックの長さが一三〇メートルとなる。

(3) <3>の点については、本件クラブハウスを撤去したほうが、運動場を使用するサッカー部及び野球部の部活動について従前どおりの活動が維持できる。

(4) <4>の点については、本件クラブハウスが撤去した場合には、自校の運動場を使って体育祭が実施できる。

(5) <5>の点については、本件クラブハウスを撤去した場合には、施設を一般に開放する場合に運動場を野球あるいはテニスの用に開放することが可能となり、また、本件新校舎の中にクラブハウスが設置されると開放ゾーンがまとまることになり、受付及び管理運営等がしやすくなるほか、住民の学校への出入りも便利となる。

(6) 本件クラブハウスを開放施設として使用できなくなることについては、改築校舎内に代替施設を設けることにより解決できる。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1は争う。

2  同2は争う。

3  同3について

(一) 冒頭部分は争う。

(二) (一)は、体育館、第一期工事分の校舎及び第三期工事分の校舎の各竣工日並びに別紙校舎等配置図の第一期工事分及び第二期工事分の各校舎の位置については否認し、その余の事実は認める。

体育館の竣工日は昭和三六年三月であり、第一期工事分の校舎の竣工日は昭和三七年四月であり、第三期工事分の校舎の竣工日は昭和五〇年一月であり、別紙校舎等配置図の第一期工事分の校舎と第二期工事分の校舎との位置は逆である。

(三) (二)は、被告主張の東京都が行った公共建築物耐震診断において杉森中学校の第一期工事分の校舎につき改築が望ましいとの診断がされたことは認め、その余の事実は否認する。

(四) (三)の事実は不知。

(五) (四)は、校舎改築等に関する基本計画案において本件クラブハウスの解体撤去が取り上げられていなかったこと、(1)のうち被告主張の各場合における運動場の面積の数値は認め、新校舎が既存の校庭内に二三メートル張り出すことになることは知らず、その余の事実は否認する。

第三  証拠<省略>

理由

一  請求原因1(当事者)、2(本件契約の締結)及び4(監査請求の経由)の各事実は、当事者間に争いがない。

二  補助金等適正化法二二条違反の主張について

1  原告は、本件クラブハウスは被告が補助事業により取得した財産であるところ、本件契約は、本件クラブハウスにつき、補助金等適正化法施行令一四条一項二号に基づく本件告示で定める右財産の処分制限期間を経過しない段階で、補助金等適正化法二二条で禁止する目的外使用又は譲渡に準ずる行為である解体撤去をすることを内容とするものであるから、同条に違反する違法があると主張する。

2  本件クラブハウスは、被告がその資金の一部につき国庫からの補助を受けて建築した建物であることは当事者間に争いがなく、右事実によれば、本件クラブハウスは補助金等適正化法二二条二項に規定する補助金等の交付の対象となる事務又は事業(補助事業等)により取得した財産であるということができるところ、同法二二条は、「補助事業者等は、補助事業等により取得し、又は効用の増加した政令で定める財産を、各省各庁の長の承認を受けないで、補助金等の交付の目的に反して使用し、譲渡し、交換し、貸し付け、又は担保に供してはならない。ただし、政令で定める場合は、この限りでない。」と規定している。そして、右の政令で定める財産として、同法施行令一三条一号で不動産が規定され、右の政令で定める場合として、同令一四条一項二号で「補助金等の交付の目的及び当該財産の耐用年数を勘案して各省各庁の長が定める期間を経過した場合」としている。

<証拠>によれば、本件クラブハウスの建築につき交付された補助金は、公立学校施設整備補助金(学校体育施設補助)交付要綱に基づいたものであることが認められるから、これを所掌する行政機関は文部省であるところ、本件クラブハウスは、文部大臣が定めた本件告示の三号別表の「処分を制限する財産の名称等」の欄に掲げる財産のうち、鉄骨鉄筋コンクリート造又は鉄筋コンクリート造のもので、学校用の建物に該当するものと考えられ、その処分制限期間は六〇年とされている。

3  ところで、補助金等適正化法は、補助金等の交付の不正な申請及び補助金等の不正な使用の防止その他補助金等に係る予算の執行並びに補助金等の交付の決定の適正化を図ることを目的として制定されたものであるところ、同法二二条は、補助事業等による取得財産を補助金等の交付の目的に反して使用し、譲渡し、交換し、貸し付け、又は担保に供することを規制するものであるが、これは、事務費等のサービス給付に係る補助金等にあっては資金が目的どおり消費されることによって補助目的が達成されたものとみることが可能であるのに対し、施設整備のための事業費補助金等にあっては、単に資金が目的どおり消費されるだけではなく、補助事業等の終了後も当初の目的どおりに使用されるのでなければ補助目的が達成されたとはいえないことから、実質的に補助金等の他用途使用と変わらない結果となるおそれのある行為を規制したものであると解される。したがって、補助金等の目的どおりに建設され、その後も目的どおり使用されていた施設を未だ耐用年数が十分残っている段階で解体するような行為は、それ自体経済的合理性の観点からその当否が検討される余地のあるものであるとしても、同条の規制する行為の対象には含まれないというべきであるから、本件クラブハウスの解体撤去が同条に違反するとの原告の主張は失当である。

三  地方財政法八条違反の主張について

1(一)  原告は、本件クラブハウスの解体撤去は校舎改築において必要的なものではないから、本件クラブハウスを解体撤去すること及び本件クラブハウスに加えて本件新校舎内に新クラブハウスを設置することは予算の無駄使いであり、右各工事を内容とする本件契約の締結は地方財政法八条に違反する違法があると主張する。

(二)  <証拠>によれば、被告の主張3の(一)ないし(四)の各事実(ただし、別紙校舎等配置図の第一期工事分の校舎と第二期工事分の校舎の位置は逆である。)、校舎改築後には、更衣室、会議室及び事務室等が一体となった新クラブハウスが住民開放施設として供される予定であることが認められ(右のうち、屋外プール、第二期工事分の校舎及び本件クラブハウスの竣工日、改築前の校舎等(第一期工事分及び第二期工事分の校舎を除く。)の位置、東京都が昭和四九年から昭和五一年にかけて行った公共建物耐震診断において、昭和五四年二月二〇日に報告された杉森中学校の診断結果が、第一期工事分の校舎につき改築が望ましいとの診断であったこと、同中学校の運動場の面積が、既存のものが五六〇〇平方メートル、校舎改築後の本件クラブハウスを撤去しない場合が五〇七〇平方メートル、撤去した場合が五三〇〇平方メートルとなることは、当事者間に争いがない。)、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(三)  右認定事実によれば、本件校舎改築等工事は、耐震上の安全性に問題のある杉森中学校の校舎を改築する必要性が認められて計画されたものであるが、右計画に当たっては、当面の改築だけに限定することなく、長期的な展望に立って同中学校における総合的な教育環境の整備、教育施設の充実を図ること及び地域住民に対する開放施設としての利用上の便宜の点が併せて検討されたものであり、その検討において、本件新校舎の位置との関係において授業や部活動等で必要とする運動場の広さの確保及び利用態様や開放施設としての運動場の使い方等を総合考慮して、本件クラブハウスを撤去して運動場を広く確保する必要性があるとしたことには合理性が認められ、これと本件新校舎内に新クラブハウスの設置が組み込まれていることからすると、本件クラブハウスが昭和五四年に建設されたもので、まだ相当の残存耐用年数を残すものであることを斟酌しても、本件校舎改築等工事において本件クラブハウスを撤去することが不必要であるということはできず、右(一)の主張は失当である。

2(一)  原告は、本件クラブハウスの解体撤去は、被告が隣接住民等に対してした本件クラブハウスをすぐ取り壊すことはない、あるいは、増築校舎の中にクラブハウスを包含することは考えていない等と説明したことを恣意的に変更するものであり、また、本件クラブハウスの解体撤去はその建築の趣旨及び地域住民の便益に反するものであるから、本件クラブハウスの解体撤去及び新クラブハウスの設置を伴う本件新校舎への改築は財産の管理・運用に関して被告に与えられた裁量権を著しく逸脱又は濫用するものであるので、右各工事を内容とする本件契約の締結は地方財政法八条に違反する違法があると主張する。

(二)  しかし、原告主張の約束等の事実を認めるに足りる証拠はなく(なお、<証拠>の中に、本件クラブハウス建築場所について、「当面校舎増築の予定はなく、従って校舎増築の際にクラブハウスを包含して建設することは考えられず、場所的にはこの位置しかありません。」との記載があることが認められるが、右説明は、説明が行われた経緯が明らかではない上に、前記の東京都が行った公共建築物耐震診断結果が出ていない時期にされたもので、校舎改築等の必要性が認識されていない当時の状況の下での説明であり、その内容は、その時点で当面校舎の増築をする予定がないということを述べたにすぎないと解されるものであるから、これをもって同教育長が本件クラブハウスを取り壊さないことを約束したとは認められない。)、かえって、右1で認定した本件クラブハウスの解体撤去を含む本件校舎改築等工事の決定経緯において、被告が右決定を恣意的にしたとの事情は全く窺えず、また、同工事の趣旨及び設計内容に照らせば、同工事により、被告が杉森中学校の施設を開放施設として管理運営する上でより効率化されるだけでなく、これを利用する地域住民にとってもより使い易くなることが窺いうるから、右(一)の主張も失当である。

四  よって、原告の本件請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鈴木康之 裁判官 佐藤道明 裁判官 青野洋士)

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